聖地巡礼 峠茶屋

衰微した日本の霊性を再生賦活させる内田樹先生・釈徹宗先生による「聖地巡礼ツアー」に参加している巡礼部および関係者によるブログ。ロケハンや取材時の感想などを随時お伝えしていきます。

No.7 GOMA

 さて、少し間があいてしまいました。ブログ管理人です。師走に入ると妙に忙しくなるのはなぜでしょう? というか、なぜもう今年が終わるのでしょうか! さて、「私が訪れた聖地」の第7回。青木さんに続き、今回も二度目に投稿していただきした井上英作さんの「音楽」をめぐる「聖地」です。とにもかくにも、お読みください!
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GOMA(井上英作)

 
 ディジュリドゥという楽器がある。世界最古の管楽器と呼ばれているもので、オーストラリアの先住民・アボリジニが使用しているらしい。ディジュリドゥは、シロアリが真ん中部分を食べることにより空洞化したユーカリの木で出来ていて、長いものだと約2m弱といったところだろうか。そのチューブ状の木管から奏でられる音は、地鳴りのような、台風のときに吹いている風のような、そんな原始的な音である。
 この楽器奏者で一躍有名になったのがGOMAである。僕は、彼の演奏を今から約20年ほど前、今は亡き「クラブ ダウン」で聞いた。大阪のダブバンド「SOUL FIRE」を見に行ったのだが、そこに彼はゲストで呼ばれていた。ダブトラックをバックに、呪術のような音を奏でるその姿は、ディジュリドゥという楽器のフォルムとも相まって、その夜、強く印象に残った。
 それから、特に気にも止めていなかったのだが、彼が大きな交通事故に遭い脳に障害をもっているということは、何となく知っていた。不思議なもので、昨年、普段殆どテレビを見なくなった僕が、彼のドキュメント番組を見ることになった。見ることになったと書いたのは、僕は運命論者で、出会うべきもの、人には必ず出会えるというふうに普段から確信しているからである。 
  僕は、そのドキュメント番組を見て、ひどくショックを受けた。全く記憶をなくした彼は、事故から数日後に、今まで描いたとこともない絵を描き始める。その絵というのが、ドットで構成されたもので、そのことを契機に、少しずつではあるが、回復する様子をカメラは追っている。僕がショックを受けたのは、その絵を構成しているドット、つまり「円」と、ディジュリドゥという楽器の形状が「円」だということ、これらのことは単なる偶然などではなく、根っこのところで何かが繋がっているとういうふうに直感で感じたからだ。キーワードは、「循環=ループ」だと、そのとき強く確信した。
 そして、このドキュメント番組を素材に、映画「フラッシュバック メモリーズ 3D」が完成し、作品は各方面で高い評価を受ける。東京でその映画をバックに生演奏をシンクロさせるという4Dライブが好評だったので、地元大阪でもライブを開催することが決まり、当然僕はそのライブを見に行くことにした。
 バンド名は、GOMA&JUGLE RHYTHM SECTIONといい、編成はドラム、パーカッションとディジュリドゥ。メロディーは殆ど存在せず、リズムは、殆ど暴力的といってもいいぐらいのもので、そのリズムをバッにGOMAディジュリドゥを淡々と吹き続ける。そのGOMAの存在は、神々しくさえ見えた。彼は、目を閉じたまま、ディジュリドゥを吹き、手を天に向かって差し出し、何かを呼び寄せるように繰り返し指を折り続ける。それは目に見えない何かとずっと対話しているような感じがした。彼は「それ」を体内に受け入れ、ディジュリドゥを通して外に吐き出す。ループしているのである。ループというのは、根源的な生命のエネルギーそのもので、この「世界」の根源だといってもいいだろうと思う。そんな大きなもの前にした僕たちは、そんなループの中の一瞬の泡みたいなものかもしれない。
 彼は、途中のMCでこう言った。
「今までの記憶はなくなってしまったが、それはそれでいいと思っている。僕には、未来があるから」
 先日、テレビで臨死体験についてのドキュメントを観た。今、あるアメリカの脳神経外科医の臨死体験が話題を呼んでいるとのこと。一般的に臨死体験は脳の作用によるものだと言われているが、その外科医は脳が機能しなくなってから、臨死体験をしたと主張し、また、記憶も知識もない赤ん坊が、臨死体験をしたという事例も紹介されている。番組では、この疑問に対する答えを探して取材を重ねていく。僕はこの中で紹介されていた、一人の学者の意見に興味を覚えた。彼によるとこれらの現象は、爬虫類の脳にも存在する脳の最も古い部分、辺縁系によるものとの見解だった。それは、「知識」や「記憶」等の表層部分よりずっと奥深くに存在する古層の「記憶」だと言えるかもしれない。
 GOMAは、脳に大きな障害を持ちながらも、ドットで構成された絵を急に書き始めたことにより徐々に回復を見せ、世界最古の管楽器ディジュリドゥを吹き、そして、すべての記憶は失ったが、幼少時代を過ごした、雨や土の匂いなど大阪での記憶だけは残っていると断言する。これらのことは、人類が持っている古い記憶の作用によるものではないだろうか?
 岸田秀に言わせると、人間というのは、過去から逃れられない動物だそうだが、それが、すなわち「生」だとすれば、GOMAは「生」と「死」の丁度真ん中あたりを浮遊していて、僕たちに根源的な「生」を提示しているようにも思える。そんなGOMAの演奏する音楽を前にした時、僕たちは、ただひたすら「聴き」そして「踊る」しかないのである。

Profile
井上英作(いのうえ えいさく):映画、音楽の好きなサブカルおやじです。仕事は、不動産会社に勤務しています。ツイッターの自己紹介をみていただければ、そちらの方が正確かもしれません。https://twitter.com/BEATAWAY

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音楽をめぐる「根源的な生」というのは、管理人は本場アメリカの「ブルース」で感じたことがあります。なぜ圧倒的な音楽は「生」とリンクするのか、などと考えたりしました。参考に、GOMAさんのリンクを掲載しておきますね。http://gjrs.gomaweb.net/
さて、いままで検討しておりましたが、いよいよ今週末に内田・釈先生と打ち合わせをして、新展開?をご報告できそうです。次回の更新は是非、お見逃しなく! ではでは!